河童のあいす薬  (竹森)
 秋もおわりのある夕暮でありました、竹森の隠居の親爺さんが裏の用水川で馬を洗っていますと、一匹の河童があらわれてきて馬にいたづらしました。
 馬がさわぐので見ると河童ではありませんか、「このやろう」とばかりとびかかってゆきその河童をつかまいました。生けどった河童を馬の背にしばりつけ急いで家に帰りました。やがてぐったりした河童を馬の背から引きづりおろし庭の木にしばりつけた親爺は、どうしてくれようかと思案していました。
 すると河童は「どうか助けてください、そのかわりよくきく傷薬の製法をおきかせしますし、またそこにある鳩の形をした石に花が咲くまで絶対に竹森の子供を川へひきずりこんで殺すようなことばしませんから、どうか助けて下さい。」と涙をうかべてたのみますので、気持ちのさっぱりした親爺さんは縄を解いて助けてやりました。すると河童は早速薬の製法を教えて、厚く礼をいって一目散に逃げ帰りました。ところが明治初年の甚平の火事の時見知らぬ人が手伝いにきてこの石を盗んで行ってしまいました、多分河童ではなかったかというのであります。しかし隠居の家では今も「あいす薬」とよぶ傷薬の製法を伝えているということであります。
*あいす…擂り合せ