うたがふな 潮の花も浦の春 芭蕉
 祖師堂の前庭の芭蕉の句碑である。碑も長年の風雪の中でさびさびとしたたた佇まいであるが、じっと冬を耐えた者への温かい心遣いの感じ(りれる句である。
 潮の花は一進一退春の兆の感じられるこの季節、割りと乾いた寒風の吹く日に、西風か北風が海岸線に向って斜めに吹く日に生まれる。
 岩に砕ける波頭が空気を含んで泡状になり、一ヶ所に吹き寄せられて盛り上かり、息をする様に吹き寄せる強風にあおられて舞い上がり、真綿のようにフワフワと町並みの屋根を越えて飛ぶ様は、まさに春を告げる現象である。
 今年は西風の強く吹く中、雲が切れてまぶしい日射しの中で二月十二日に小泊一帯にフワフワと潮の花が飛び交った。
 あいにく車にカメラがなく、このチャンス逃がす手はないと石段を駆け上って着替えて海岸へ走った。
 新しく整備された西埠頭には積み出しを待つ岩石が山積みされて大型のショベルカーが轟々とエンジン音を響かせながら石の山の中で動き廻り、岩壁に砕ける波を楽しむように鴎達は波頭すれすれに低空で舞い下りると見るや翻って空に遊んでいる。
 堤防を越えた波は空気を一杯にはらんで湾内に崩れ落ちてそのまま岩壁にぶち当って更に膨らんで泡状になり一ヶ所に吹き寄せられると盛り上って強風にあおられて空中へ舞い上がり、追い駆け合いなから町の中に飛んで行く、飛沫に雲るレンズを拭き拭きの撮影は骨が折れる。
 昨年末から風の日が例年になく多く漁師達は出漁の日が少ないと言う。その上、旬のタコ漁が不漁で、新潟方面は好漁なのにとくどく。韓国漁船の遭難のニュースがつづいたが、寺泊を基地とする捲網船も避難入港する程三十メートル以上の風が吹く日もあるらしい。
 タコは産卵期に浅場へ入ってくるのを待ちかまえて捕らえられるのだが、産卵すると親ダコは呑まず食わずで一ヶ月以上も卵の世話をしてボロボロになって子ダコが孵化るのを待って死んで行くのだと言う。
 特にこの季節タコの腹のものは絶品で、当然の事ながら雌ダコの頭には卵が一杯に詰っており、雄ダコには濃厚な豆腐状の精子が詰っておりこれ等はまさに地元でなければ頂けないグルメと言うことになるのだが、思えば罪深いことである。
 二月から河での漁は禁漁期に入り、寒八ッ目も寒鱒も三月の解禁の日を迎えるまで当分お預けと言うことになる。
昨年から禁漁の一月一杯で獲れた寒マスは全部で十一本とのこと、値段もさることながら誰方が舌鼓を打たれたことやら。
 寺泊の魚ではこの時期のマスが一番の高値と思っていたらさに非ず。数年前定置網であがったトラフグでキロ当り二万二千円と言うのが寺泊の記録保持者とのこと。 今年は地方選挙の年で巳にあちこちで始まり、当町でも一番大変な町議選の話題がしきりである。
 二月十五日臨時町議会が招集され今まで二十名の定数が十八名に議決され、従って四月の選挙は十八名の定員で戦われる。
 人口は少しづつ減少しており本年二月二十二日現在人口は一万二千五百六十九人。
 引退組あり新人の参入ありと今回の選挙は先回無競争であっただけに予測が難しいとの噂でそれだけに熾烈な戦いになりそうである。
 町道では下水道工事が進められており進入禁止の区域等不便をしばらくは我慢せざるを得ないところであるが、これも新しい時代に向って特に観光立町を目指し、きれいな海を守る上からも遅きに過ぎた程で、一日も早い完工実動の日が待たれることである。
 年々延びる砂浜は特に冬場の北風の影響で冬期間に打寄せる波に運ばれる砂が多いわけで中央海水浴場は更に仲に向って延び下手の随道川河口までの砂浜は植栽の為に土が運び込まれ整地が進められている。
 あの一帯が計画通り美しい緑地となれば又寺泊の海岸は新しい時代を迎えることになろう。 冬の大波はギバサ等海の幸も運んでくれる。荒れる年はそんな楽しみもあって、特にギバサの多くあがる年はエゴ草が豊作と言われている。
 寒風と冬波に洗われた岩場には岩ノリが附く。かつては野積の人達が渡しで沖の突堤の岩場に渡ってのノリ摘みが冬の風物であったが今日もうその姿はない。 砂の押し寄せる勢いに海藻は繁殖の場を奪われ、わずかにカミ海岸の岩場が岩ノリやアオサの摘み場として残っているが春の磯辺の風味として残してゆきたい産物である。 新しい岩に海藻は附き易いようで、ノリ場を持っている所では秋になると他の海藻等を洗い流して冬へ向ってノリの胞子の附着を促している。
 山田海岸の親水岩場の新しく敷きつめた岩には見事に黒々と岩ノリが育っている。
 整備なった中央埠頭は県の進める環日本海大交流計画の一環としての「ニューにいがた」造り事業への積極的な参画を目指して「ふれあいの場づくり」共同事業の調査費を受け、具体的な計画へ向って寺泊港の将来を考える懇談会があらためてスタートすることとなった。
 海路と陸路の交差点として、新しい地域価値の創造と交流人口の拡大を通して産業の創出誘導に資すると言う目標実現の為にどのような立案がなされてゆくのか大いに期待したいところである。
 町の芸術文化活動の本拠文化会館はまなすは大いに町民に活用され、町が担当する諸会議の会場としても、他町村から参加するメンバーの羨望の的であり、視察団も多いようで、その活用度は県下抜群と評されているところであるが、特に図書館を利用する子供が多いことは、こと更喜ばしいことである。 日曜など自転車で遠くから通う子供もあり、図書室、読書を通して子供達のよりよい交流が生れて欲しいと心から願うところである。
 これからのイベントも目白押しで、現在は町在住の芸術家の特別展が開催中で、仲々ハイレベルの作品に町民の芸術への関心が高まり、啓発され、育てられて行くことになろう。 笹川英志雄氏の書と日本画、近藤嘉氏の洋画の大作、長原実氏の版画、橋本直行氏の洋画、小島平弥氏の版画と象刻、有坂幸子氏の書、佐藤準子氏の日本画、川崎猛氏の洋画、渡辺功氏の水彩漫画、三浦猛幸氏の洋画、星紀夫氏の書、金子十四大氏の洋画が展示されているが、まだまだ活躍の諸氏もおいでであろうから是非今後とも発掘、継続して欲しいとの声が強い。
 更に上杉香緒里歌謡コンサートと町民参加のカラオケ大会。
クラシックギターのスプリングコンサート、こん平師匠の文化講演会等々盛り沢山の楽しみ番組が企画されているが、文化講演会は仲々企画が難しく、堅い話では聴集が集まらず、さりとて落語家が落語を語らぬと言うのも談志師匠あたりだったら罵声を浴びせられそうであるが、角を矯められた格好の落語家がどんな話を切り出すのかこれも一興である。ふる里は今、春に向ってエンジン全開の時である。