盗まれた六神将  (下桐)
 下桐に薬師堂というお堂があります。僧行基が和銅年間にたて、薬師如来、千手観音を奉りました。
 その後弘法大師が、延命地蔵をはって大乗寺と名づけ、長いこと信仰を集めたのですが次第にすたれてしまいました。永禄元年(一五五八)に今の堂を再建して、不動院薬師堂と名づけられたものといわれます。さて薬師堂の起こりはこの位にして、「盗まれた六神将」という話にうつりましょう。
 今から二五〇年はど昔のこと、江戸時代の中頃、この薬師掌にまつられていた十二神将という仏をまもる十二体武人の姿をした神将とよばれる像がありました。ところがいつの間にかこのうち六体が何者かのために盗まれてしまいました。色々の人に頼んで方々調べてみますと、南蒲原郡中之島の杉之森の薬師堂に、その盗まれた六神将まつられてあるではありませんか。早速杉之森の庄屋と話合い、つれもどすことに決めましたところが、下桐の村人みんなが次ぎのようなをみました。夢の中で六神将があらわれて、「私共は因縁あって杉之森に来たのだから帰らない、帰らなくとも下桐の者は必ず守る。たとい子供一人でもけっして河童などにとらわれるような事のないよう必ず守るから、私達を迎えになど来て下さるな。」と言うのです、翌朝お迎えにゆこうと思っていた村人は、この夢じらせで諦めました。
 今でも杉之森薬師堂には六神将がお奉りしてあるとのことですし、又それからというものは、子供が河童にとられることが無くなつたそうであります。