御   所   桜  (矢田)

 矢田の山崎一郎さんの庭前に、「御所桜」と呼ばれる桜があります。「御所桜」というのは天皇がじきじきにお手植えになったとか、天皇様から贈られた桜の場合をいうのが普通です、つまり矢田に天皇様の桜があるということです。
 承久三年(一二二一)と申しますと今から七三五年ほど昔、北条氏のために佐渡へ島流しになる順徳天皇は寺泊で、荒れ狂う日本海がおさまるまで、菊屋五十嵐氏のところに滞在されました。
 矢田はその頃は大変賑やかな村だったのでありましょう、天皇は尽してくれる山崎家へ行幸され、その時、同家の庭先に桜の苗をお植えになられました。
 それが御所桜と名付けられて今なお咲いているのであります。一株より七本ほどでており、いずれも四、五十年にして生いかわり、花は一重でまことに古雅で、けだかさ、清らかさに満ちた晩咲で、花の頃には杖を曳く人達も多ということであります。
 そして山崎さんのお家では、みかど(帝)より賜った「ごしょがめ(御所甕)」というのを秘蔵しておられます。
 量は二斗ほど入れられ、色は淡黒色にして、形は胴が大きく底は小さく、「まことに愛すべき、無比の奇品なり」と温古の栞は褒めちぎっています。故山崎紀一さんは「桜の苗をこのかめに入れて、帝が持ってきて下さったか甕です」と語っておられました。
一説では同じ矢田の山崎左工門という人が、佐渡からこの御所桜をもちかえり伝えたものだという詰もあります。