あとがき
 こんなに夕日と縁遠くなったこともあるまい。
 ここ一ケ月余の間で二回ほど。何回かの台風も通過のあとのカラリとした秋晴れはなく、ぐずぐずとした曇りや雨で、昼間青空が広がって今日こそ美しい夕日が見えるかと期待していると何やらいつの間にか沖には雲が立ちこめて裏切られてしまう。
 夏から秋へ季節が移行する時、風や雲や植物や昆虫達がその変り行く季節をはっきりと表現してくれるように思われるのだが今年の天候はやはり変である。
 サバ雲やイワシ雲も見ない中にどんどん秋は深まり、夏の盛りから家並に沿ってカミからシモへ又シモからカミへ渡ってゆく鬼ヤンマの姿もほとんど見かけることはなかった。
 やがて鬼ヤンマの姿が間遠になる頃アカトンボが姿を見せはじめ、気がついてみると空一杯溢れる程にアカトンボが群れており、てんでばらばらに飛んでいるように見えながら全体的にはゆっくりと一方向へ移動して、あれだけの数の大群も死骸一ッ見当らないところを見ると無事目的地まで移動しおおせるのであろうか。
 このところ急に涼しく朝夕は火が恋しい程の肌寒さで虫の声もすっかり消えてしまった。
 町を歩くと晴れ間をみて網戸を洗う家々が目立ち、庭木の冬囲いが始まった。
猫達も不得意な季節の到来間近かなことを敏感に感じてか日向に集って猫談義に花を咲かせている様子。
 十月の小六月と言うお天気の表現があるのだが、これ又今年はそんな表現に当たるお天気はない。もう報恩講荒れ、松の鳴る季節となる。